今月のワンポイントアドバイス2005年版
   2005年1月 「メリが良く出る2005」
   2005年2月 「よーく考えよう、練習」
   2005年3月 「ツのメリは何種類?」
   2005年4月 「Exaggeration」
   2005年5月 「モノを言う表現」
   2005年6月 「『吹く』だけじゃない息のだし方」
   2005年7月 「音量にかかわらない効率」
   2005年8月 「黄金減衰」

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2005年 1月 「メリが良く出る2005」

 年の初めはやっぱり、またまたメリについてです。
 このコーナーで何度も申し上げていますが、音程がかわる現象についてまず申し上げます。
 尺八の最上部の孔、つまり歌口のある部分の開口部を閉じる事で音程が下がり、開ける事で音程が上がります。
 口の中で舌の位置を変える事で音程が変化する現象もありますから、上記の事が唯一では無いとも思えますが、音程変化の大きな鍵を握っているのが、開口部分の面積のコントロールである事には違いありません。
 そこで効率の良い、開口部のコントロールを身につける事が大事なのですが、まず、開口部分を閉じる唇や顎の動きが御自分で思っている様には動いていなことを理解すべきだと思います。
 効率の良い、最善の動きで開口部を閉じるためには、それなりのイメージを持つ必要があります。
 いろいろなイメージを今までにも申し上げて来ましたが、今回申し上げるイメージの持ち方は、今までのイメージがなかなかよけいな力を抜く事に結びつかなかったのに対して、不要な力が入らずにできる良いイメージではないかと思います。

 それは、「顎当たりの部分に隙間を開けるようにする 」です。
 尺八の後側が当たっている顎と、尺八の間に隙間を開ける様にすると、尺八の角度はメリの時のようになります。通常のメリ方のイメージだと、後ろ側にも力が入ってしまい、開口部分を閉じる以外の不都合が生じやすく成る様です。
(息の出口が必要以上に小さくなる、など)
 「隙間を開ける」というイメージがよけいな力の入るのを防ぐのに大いに役立つはずです。
 もう一つ大事な事ですが、本当に後側に隙間を開けると、音は出なくなってしまいます。

 やっぱり、今年もメリです。

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2005年2月 「よーく考えよう、練習」

 ある程度の期間尺八を吹いている方で、よっぽど悪い練習方法が身についている方以外は、尺八のだいたいの技法はこなせるものです。
 良い例が筒音です。調子の良い時に、気楽に吹くととても良い音が(音量も含めて)するものです。ところがこれが曲の中で再現できないということが非常に多いのです。
 メリにしても、ピックアップして練習するとできるのに曲の中で不正確になってしまう。良く鳴るはずの「ロ」が大メリの後でかすれてしまう。単独に練習すると出るロの大メリが高くなる。などなど。
 あげればきりがないくらい「曲の中での不具合」があります。
 そのできない箇所のみ練習すると、うまく行かない確率は高くないのに、曲の中でうまく行かない。これらのうまく行かない事にはすべて原因があります。

 ごく初心者の練習は「できない事をできるようにする」ことですが、個々の技法ができる方の練習は「できる事ができなくなる原因を探る」ことであるべきです。
 この根本の考え方を間違えると練習の効率が非常に悪くなってしまいます。
 もちろん気分よく1曲吹く事もいいですが、本当に上達を考えた場合、効率の良い練習がとても大事な事です。
 横山勝也館長が口癖の様に「工夫と努力が大事」とおっしゃいます。
 効率良く練習する工夫とそれを持続する努力を続けましょう。  

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2005年3月 「ツのメリは何種類?」

 2002年12月のワンポイントアドバイスで「割り増しのメリ、割り引きのメリ」というお話しをしましたが、これを更に踏み込んでお話しようと思います。
 多くの方が「ツのメリ」というと1種類しか無いように思われるかも知れません。(ツのメリとツの中メリの2種類ということじゃありません。)もうちょっと分かりやすく言うと、1つしかない正しいツのメリの音程を正しくだすための手法、あるいはイメージが沢山あるということです。
 曲の中でもっとも出しやすいツのメリはフレーズがツのメリからスタートする場合です。これは十分準備ができますから、出しやすいのです。出しやすいとはいえ、甲と乙では微妙にメリの深さが違うはずです。(これで2種類)
 同じツのメリでも1つ前の音がロであるか、別の音であるかで違います。ロからツのメリは半音ですから出しやすいはずです。ところが、ツ、レ、チなどからだと1孔をいきなりツのメリにしなければならないので、高めだけでなく不正確にもなりやすいのです。精度を上げなければなりません。(これでもうプラス3種類。甲乙入れれば倍です。もうかぞえるのは止めます。)
 「ウのまる」と呼んでいますがレと同律のウからツのメリに行く場合、通常と逆に低くなりすぎる場合もあります。これはウのまるのメリの深さが深いためにそうなりやすいのです。
 また、早いフレーズの中に出てくるツのメリは高くなりやすいです。ゆっくりのスピードで練習すると正しくできるのにその曲本来のスピードでは高くなる。この原因はメリの配分が違ってしまうことが原因です。「メリの配分」とは、指でコントロールする孔のあけ加減と、顎でコントロールするメリの2つのメリのコンビネーションのことです。早いフレーズでは顎が、正しくメリが出る位置まで行けません。それなのに手孔の空け加減はいつもどうりと言う事になりやすいのです。ですから、早いフレーズでは「顎は間に合わない」ことを認識して手孔の空け加減を意識して通常とは変えなければなりません。

 といったように、同じ音程だから同じように出せばいいということではありません。様々な場合に応じて同じ音程を出すための工夫をしなければ同じ音程にならないのです。  

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2005年4月 「Exaggeration」

 聞き慣れない単語かと思いますが「Exaggeration」は日本語風に発音するなら「イグザジュレイション」でしょうか。意味は「誇張」とか「強調」というものです。
 最近、日本以外の場所や、日本人以外に尺八の講習をする機会が非常に増えていますが、そんな時に良く使う単語です。妙に強い印象を持った英単語なので今回のワンポイントアドバイスの内容を覚えていただくために使いました。
 どういう状況で使うかと言うと、多くの場合音量の変化に関してです。
 演奏者自信が「これくらいでいいだろう」と漠然と思っている音量変化では、ほとんどの場合不十分なのです。もちろん演奏者自信の耳には十分に効果があるので「これくらいでいいだろう」と思ってしまうのですが、聞いている側にはそれだけの変化が伝わりません。かなり「誇張」して、演奏者自信の耳には大きすぎるぐらいにして初めて聞いている側に効果をおよぼします。
 始めの内はこれが「誇張」なのですが、心掛けていればこれが「普通」になります。こうなれば演奏者の耳が聞く側の耳と同じになり、演奏者自身が自分がどう演奏しているか演奏しながら正しく判断できるようになります。
 色々な表現を思いっきり「誇張」して録音して聞いてみてください。こんなに誇張していいのか、とかここまでしなければいけないのか、といった感想をお持ちになるだろうと思います。
 名人とそうでない人の大きな違いの一つがこの「演奏しながら正しく聞けるか」と言う事だと思います。
 自分の演奏は自分が聞いているより一回りも二回りも小さいものだと思うといいと思います。それを修正するには「Exaggeration」です。

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2005年5月 「モノを言う表現」

 このワンポイントアドバイスでは折に触れて音程の大切さを申し上げています。  音楽として尺八を考えた場合にこれは避けては通れない大きな課題です。
 音程のことは二の次、三の次になっている方もいらっしゃるのも事実ですし、尺八の歴史を考えると「音楽」としてとらえられていな時代もあったので、こういう考え方があるのもわかります。しかし人に聴いてもらうと言う事を考えた場合、尺八を使ったパフォーマンスは明らかに「音楽」です。人に聴いてもらわないのならいいかもしれませんが、人が聴く可能性のある状況で音痴な演奏は困ります。
 ここに更に大事な事があります。音程に注意をはらって演奏をした場合に時として大切な「表現」ということを忘れてしまいがちです。音程さえ合っていればいいのではなく、「音程」がきちっと合った上でさらにどういう「表現」が最適なのか考える必要があります。
 「表現」をごく分かりやすい例で御説明します。例えば「ドミソ」というメロディーを演奏する場合に「ド」をどれくらいの音量で、どれくらいの長さで、音量の減衰はどれくらいで、、、という組み合わせの中から最善のものを選びだすのが「表現」する事といっていいと思います。この組み合わせによってただの「ドミソ」が悲しくもなり、楽しくも表せるのです。
 「音程」そして更に「表現」を磨いてください。

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2005年6月 「『吹く』だけじゃない息のだし方」

 曲の演奏中に普段通りの音が出にくいと感じた事はありませんか。
 例えばロ吹きの時にに出る朗々とした音が、曲の中でその音が必要とされたときに同じように出ていますか。またメリの後にほしい音が出せていますか。音量を変えたときに音色が変わりすぎると感じたことはありませんか。

 やっと音が出ているだけという状態ではなかなか魅力のある表現はできません。

 もちろん音程を正しく維持するということがとても大事なことですが、良い鳴りにも注意を向けてください。

 これは常に、できる限りの音量で吹くということではありません。その表現に必要な最善の音量があります。
 音量とは別に良く鳴っているか、ということです。言い方を変えると、効率の良い鳴りと言えるかと思います。

 どんな音量でも効率良く鳴らすということは簡単ではありません。大きな音量のときは効率良く鳴らせても小さい音量で効率良く鳴らすことはそれなりの工夫が必要です。

 この鳴りのチェックに「毎日のロ吹き10分」がとても有効です。ロ吹き10分の間にただただ大きい音を出すのではなく、どんな音量でも効率良く鳴っているかをチェックするといいと思います。「ロ吹き」というくらいですから、「吹く」のですが、ある程度音量が小さくなったところからは「吹く」というイメージから「溜息」というイメージに切り替えていくと小さい音量が効率良く出ると思います。息を出すイメージを様々に変えてみてその音量に最善の息の出し方を発見してください。

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2005年7月 「音量にかかわらない効率」

 音を出す上で息がどれくらい効率良く音になっているかという事がとても大切です。
 初心の方に小さい音を出すように言うと、その音を出している時間が大きな音を出している時と ほぼ同じと言う事がままあります。これは自然に息から音への変換の効率を落として音量を下げているのです。なので小さい音なのに大きい音とくらべて長く吹けない、と言う現象がおきます。
 効率が悪いですからその失ったエネルギーが雑音成分になります。上手に雑音にならないように息を無駄に捨てる事もできるでしょうが、いずれにしても無駄には違いありません。

 大きな音を出す練習がまずは息---音の効率を上げる練習である事には間違いありません。しかし音量が変えても効率の良い音を出す事ができるようにくふうしてみて下さい。
 実は先月のワンポイントアドバイスがこの事を可能にする一つの方法です。
 蚊が飛んでいるような小さな音を持続して出せるようになると息---音の効率はずいぶん良くなっていると思います。

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2005年8月 「黄金減衰」

 はじいて音を出すタイプの弦楽器は音の終わりがとても自然です。手を加えずに自然に音量が減衰していきます。
 ところが尺八では音の終わりの部分を演奏者がコントロールしなければならないのでトラブルになりやすいのです。

 表題の「黄金減衰」というのは筆者(柿堺)の発案です。「黄金比」のように、音量の美しい減衰曲線があるはずである、という考えの元に考案しました。つまり、いきなり音が無くなるのでもなく、長過ぎもしない、という心地よい音量の減り方があるということです。

 尺八は、「はじくタイプの弦楽器」に比べて音を美しく終わらせるのはとても難しいものです。でもこれはコントロール次第では、減衰をコントロールしにくい「はじくタイプの弦楽器」よりもより自由であるということでもあります。

 実は多くの人が「苦手な音量」を持っています。それより大きくても、小さくてもいいけれど、その音量が出しにくい、と言う事があります。この「苦手な音量」があると美しい減衰はなかなか作れません。どういう音の減衰が最も美しいか、どの音量が上手く行かないか、ロ吹きの練習中に考えてみるのが大事です。
 また、よく「響きの良いホール(会場)」ということを言いますが、これは美しい音の減衰を作りやすいということにもなるのではないかと思います。

 吸い込まれて行くような美しい音の終わりを作り上げて下さい。

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